ACUTE RESPIRATORY INFECTION
風邪(急性気道感染症)の診断と治療
重い病気を見逃さないこと、つらい症状を和らげること、不要な抗菌薬を使わないことを大切に診療します。
監修:西本 紘嗣郎(院長)
2026年9月3日更新
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最初に重症でないか確認します
当院では、まず体温・血圧・脈拍・呼吸数・酸素飽和度(SpO₂)と全身状態を確認します。風邪に似ていても、肺炎、喘息発作、急性喉頭蓋炎、扁桃周囲膿瘍、敗血症などでは早い対応が必要です。
- 息苦しい、胸が痛い、唇の色が悪い、SpO₂が低い
- 意識がぼんやりする、立てない、血圧が低い
- 唾も飲み込めない、よだれが出る、口が開けにくい、声が出しにくい
- 高熱が続く、いったん軽快してから急に悪化した
- 水分がとれない、尿量が少ない
高齢者、妊娠中、免疫機能が低下している方、心臓・肺・腎臓などの持病がある方は、症状が軽く見えても慎重に判断します。
02
症状の中心から4つに分けます
感冒(一般的な風邪)
鼻水・鼻づまり、のどの痛み、咳が同じ程度にみられます。多くはウイルス性で、時間とともに自然に改善します。
急性鼻副鼻腔炎
鼻水・鼻づまりが中心で、頬や額の痛み、膿のような鼻水を伴うことがあります。軽症では抗菌薬を使わず経過をみます。
急性咽頭炎
のどの痛みが中心です。咳がなく、発熱、前頸部リンパ節の腫れ、扁桃の白い付着物などがある場合は、A群溶血性レンサ球菌(GAS)の迅速検査を検討します。
急性気管支炎
咳が中心で、痰や発熱を伴うこともあります。咳は2~3週間続く場合がありますが、大部分はウイルス性で、痰の色だけでは細菌感染か判断できません。
高熱、強い倦怠感・筋肉痛、流行状況や接触歴がある場合は、インフルエンザや新型コロナウイルスの検査を検討し、陽性時は別の治療方針で対応します。
03
当院の基本治療プロトコル
1.普通の風邪:抗菌薬は使いません
感冒の約9割はウイルスが原因です。抗菌薬はウイルスに効かず、治るまでの期間を短くしません。下痢、吐き気、発疹などの副作用や耐性菌の原因になるため、普通の風邪には処方しません。
休養、睡眠、水分摂取を基本とし、つらい症状に必要な薬だけを短期間使用します。すべての薬を一律に組み合わせることはしません。
2.肺炎・インフルエンザなどを疑う場合
診察所見に応じて、インフルエンザ・新型コロナウイルス検査、胸部X線、血液検査などを行います。肺炎や抗ウイルス薬の適応がある感染症と診断した場合は、それぞれの治療へ切り替えます。
3.再診の時期をお伝えします
通常の経過から外れたときに再評価できるよう、受診の目安を説明します。高熱や息苦しさが出た、症状が長引く、一度よくなってから悪化した場合は、同じ処方を続けるだけでなく診断を見直します。
04
成人の実際の処方例
以下は、基礎疾患のない成人に対する標準的な処方例です。診察のうえ、必要な薬だけを選びます。年齢、体重、妊娠・授乳、肝機能・腎機能、併用薬、薬のアレルギーなどにより変更または処方しない場合があります。
発熱・頭痛・のどの痛み
- アセトアミノフェン(先発品名:カロナール®)500mg:1回1錠、症状があるとき。4~6時間以上あけ、1日3回まで(通常3~5日分)
ほかの風邪薬にもアセトアミノフェンが含まれることがあります。重複服用、過量服用、飲酒後の服用に注意し、肝疾患がある方は用量を調整します。
鼻水・鼻づまり・発熱など複数の症状
- PL配合顆粒:1回1g、1日4回、短期間(年齢・症状により調整)
PL配合顆粒には、サリチルアミド、アセトアミノフェン、無水カフェイン、プロメタジンが含まれます。カロナール®などアセトアミノフェン製剤とは併用しません。眠気が出るため運転は避けます。閉塞隅角緑内障、前立腺肥大などによる排尿障害、消化性潰瘍、アスピリン喘息、重い肝障害がある方には使用できません。
痰がからむ咳
- カルボシステイン(先発品名:ムコダイン®)500mg:1回1錠、1日3回、食後、5日間
妊娠中、肝機能障害、高齢者などでは必要性を再検討し、状態に応じて減量・変更します。
乾いた咳・眠れないほどの咳
- デキストロメトルファン(先発品名:メジコン®)15mg:1回2錠、1日3回、食後、5日間
眠気やめまいが出ることがあります。SSRIなどセロトニンに作用する薬、MAO-B阻害薬、一部の不整脈薬などとの相互作用があるため、お薬手帳を確認します。痰が多い場合は咳を強く抑えすぎないようにします。
咳が非常に強い場合のコデインについて
急性の風邪による咳に対して、コデインはプラセボより有効とはいえないというガイドライン評価があり、呼吸抑制、眠気、便秘、依存性などのリスクもあるため、当院の標準処方にはしません。酸化マグネシウム(先発品名:マグミット®)を併用すると便秘を軽減できる場合がありますが、呼吸抑制や依存性のリスクは防げません。
咳が強いときは、肺炎、喘息・咳喘息、百日咳など別の原因がないかを再評価し、原因に合った治療を優先します。
咽頭の腫れ・痛みが強い場合の追加例
- トラネキサム酸(先発品名:トランサミン®)250mg:1回1錠、1日3回、食後、3~5日間
血栓症の既往またはリスクがある方、腎機能が低下している方などには処方しない、または用量を調整します。鎮痛の基本はアセトアミノフェンです。
処方例は患者さんが自己判断で薬を選ぶためのものではありません。市販薬や他院処方との重複を避けるため、受診時にお薬手帳をお持ちください。
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抗菌薬を使うのは限られた場合です
GAS(溶連菌)咽頭炎
迅速抗原検査または培養でGASが確認された場合に抗菌薬を使用します。検査陰性の急性咽頭炎には原則として抗菌薬を使いません。
培養結果を待つ場合も無治療ではありません。アセトアミノフェンなどによる痛み・発熱の緩和、水分摂取、休養などの対症療法を行い、培養が陽性なら連絡して抗菌薬を開始します。結果が判明する前の抗菌薬投与は原則として行いません。
- 処方例:アモキシシリン(先発品名:サワシリン®/パセトシン®)250mg 1カプセルを1日3~4回、10日間(年齢・体重・症状で調整)
ペニシリンアレルギーがある場合は、反応の重症度を確認して代替薬を選びます。伝染性単核球症が疑われる場合はアモキシシリンで発疹が出やすいため注意します。
中等症以上の急性鼻副鼻腔炎
鼻症状と顔面痛が強い、10日以上改善しない、39℃以上の発熱と膿性鼻汁が3日以上続く、いったん改善してから再び悪化する場合などに細菌性を検討します。軽症では、まず5日間、抗菌薬なしで経過をみます。
- 処方例:アモキシシリン(先発品名:サワシリン®/パセトシン®)500mgを1日3回、5~7日間
これは厚生労働省手引きの成人例です。重症度、アレルギー、腎機能、過去の抗菌薬使用歴を確認して決定します。
急性気管支炎
肺炎や百日咳など別の診断がない限り、抗菌薬は使用しません。黄色や緑色の痰だけを理由に抗菌薬を処方することはありません。
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再診・救急受診の目安
- 息苦しさ、胸痛、意識がぼんやりする、唾も飲み込めない場合は早急に受診
- 発熱が3~4日以上続く、咳や全身状態が悪化する場合は再診
- いったん改善した後に再び発熱・咳・鼻症状が悪化した場合は再診
- 咳が3週間以上続く、血痰が出る、体重が減る場合は別の原因を調べる
強い呼吸困難、意識障害、冷汗を伴う胸痛などがある場合は、診療時間を待たず119番へ連絡してください。
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鼻づまりにモンテルカストを使う場合
モンテルカスト(先発品名:キプレス®/シングレア®)はアレルギー性鼻炎には承認されていますが、ウイルス性の普通の風邪による鼻づまりに通常使用する薬ではありません。鼻づまりがアレルギー性鼻炎によると考えられる場合や、喘息を合併している場合に選択肢となります。
成人のアレルギー性鼻炎では、通常5~10mgを1日1回就寝前に服用します。症状と診断に応じて、抗ヒスタミン薬や鼻噴霧用ステロイド薬などと比較して選びます。
風邪の鼻づまりだけを理由に追加する薬ではありません。鼻症状が長引く、季節性がある、目のかゆみやくしゃみを伴う場合は、アレルギー性鼻炎などを確認します。
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仕事・学校を休む目安
普通の風邪、インフルエンザ、新型コロナなどでは、仕事と学校で復帰の考え方が異なります。感染症ごとの目安、証明書の考え方、医療・介護・食品を扱う仕事での注意点を別ページにまとめました。
感染症にかかったときの仕事・学校復帰の目安発症日を0日とする数え方や、インフルエンザ・新型コロナ・学校感染症の目安を確認できます。
勤務先や学校が独自の基準を設けている場合があります。医療・介護、保育、食品を扱う方は、復帰前に所属先へ確認してください。
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よくあるご質問
抗菌薬を飲めば風邪は早く治りますか?
一般的な風邪はウイルス性のため、抗菌薬では早く治りません。厚生労働省の手引きでも感冒には抗菌薬を使わないことが推奨されています。細菌性と判断した限られた場合に使用します。
黄色い痰や鼻水なら抗菌薬が必要ですか?
色だけでは細菌感染か判断できません。症状の期間、発熱、顔面痛、呼吸状態、診察所見などを合わせて判断します。
処方例の薬を全部飲むのですか?
いいえ。つらい症状に必要な薬だけを選びます。併用薬や持病によって使えない薬もあるため、診察後に個別に決定します。
咳は何日くらい続きますか?
急性気道感染症の咳は2~3週間続くことがあります。息苦しさ、高熱、胸痛、血痰、悪化傾向がある場合や3週間以上続く場合は再評価が必要です。
GASの培養結果が出るまでは何もしないのですか?
抗菌薬は原則として陽性確認後に開始しますが、待機中も痛みや発熱に対する薬、水分摂取、休養などの対症療法を行います。息苦しさ、唾が飲み込めない、急速な悪化などがあれば結果を待たず再評価します。
CONSULTATION
症状の経過と服用中の薬をお聞かせください
症状が始まった日、最高体温、咳・痰・鼻水・のどの痛みの程度、周囲の感染状況を確認します。お薬手帳がある方はお持ちください。